幾久しく、君を想って。
セールストークも上手で雰囲気も優しそうな松永さんは人気者だ。

この班では既婚者が多いけど、独身の社員さんもいる。


「因みに松永さんはどのチョコレートが好きですか?」


ストレートヘアでお嬢さんタイプの久保さんが聞いている。
特集の組まれたカタログには、有名メーカーのチョコレートの写真が載っている。


「俺ですか?チョコよりもビールとかの方が好きですけどね」


「アルコール入りとかもありますよ。日本酒とかブランデー入りとか」


「そういうのってあまり好きじゃないんですよ。チョコならビターとかブラックとかがいいかな」


間を空けて見るせいか、単純に話を合わせているだけのようにも見えてくる。

でも、久保さんにしてみると違うらしく、真面目そうな顔をして「ビターとかブラックね」と呟く。


「まっちゃん、義理でもいいから貰おうとしてない?」


「そんな心配しなくても本命チョコをくれる人がいるんでしょ?」


厨房の女性陣はそう言って揶揄いだした。
その中には勿論、高本さんも入っている。


「そんな人いませんよ」


笑いながらどっち付かずな言い方をしている人を目で追い、自分には関係のない話だな…と他所を向く。


「宮野さんも良かったら注文して下さいね」


急に話しかけられ、ドキッと胸が鳴る音もしたけど……。


「そ、そうですね。友チョコとかなら買うかもしれない」


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