幾久しく、君を想って。
気にしないように笑って誤魔化した。
その後は何も考えないよう努めておいた。



「それじゃ仕事に戻りましょうか」


神田事務長さんの言葉に応じ、皆がハッポースチロールの箱を手に中へと入りだす。


私はこの状況でどんなふうに話しかけられるのだろうか…と思って、ぼんやりとしていたせいもあり、気づくと一人で取り残されていた。



(あっ…)


自分も…と思いつつ、建物内に足先を向ける。
歩き出そうとしたら、ぎゅっと手首を握られた。


ドキッと胸が弾み、心臓が捕まれたような気持ちがする。
期待もしてない筈なのに、特別な話が始まるのか…と振り返った。



「あの…」


話を始める前に、この手首を離して欲しいんだけど…。



「…あっ、すみません…」


パッと手を開いた人は、ほやっと柔らかい笑みを浮かべる。


「つい掴んでしまって申し訳ないです。話があると言ったのに、聞かずに逃げて行きそうだったから」


冷たい空気に包まれながら聞くせいだろうか。
耳の鼓膜が冷え過ぎてて、音がよく響いてこない。



「…宮野さんにお願いがあって」


お願いに変わってドキッと胸が打ち出す。

困った様な表情にも見える松永さんの顔が寒そうで、少しだけ赤い鼻の頭を見つめた。



「実は…来週の日曜日なんですけど……」


そう言って見せてきたのは三つに折り畳まれた紙切れ。


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