幾久しく、君を想って。
それを両手で開きながら「当たったのはいいけど、一緒に行く相手が居なくて」と零す。


広げられたのは映画の試写会のチケットだった。
家族映画らしく、一度観てみたいと思っていたものだ。


「俺はSF映画を当てるつもりでいたんだけど、残念ながらこんなものが当たってしまって」


こんなものと言われたら監督も俳優陣も可哀想だ。

この映画は家族とは何かを教えてくれるものだと、前評判では聞いている。


「良ければ一緒に行って貰えませんか?子供さんとの約束が無ければでいいので」


金曜日に話した拓海のことを気にしてくれている。
土曜日ならともかく、日曜日は何の予定も立てていない。


だけど……。


「私でなくてもいいんじゃないですか?」


つれない言葉を言ってしまった。
さっきの久保さんを見ていると、自分ではいけない気もする。



「宮野さんとがいいんです」


「どうして?」


私はバツイチのコブ付きだと教えたのに。


「一緒に観て貰えそうだな…と思えたのって、宮野さんだけでした。貴女となら、しんみりと後で語れそうだなと思って」


「語る?何を?」


「家族とか、夫婦について」


そういう映画だと聞いたので…と足され、それは自分もそう聞いて知ってます…と呟く。




「駄目ですか?」


悄気そうな顔を見せられたら、駄目ですね…と強く言えない。


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