幾久しく、君を想って。
その日の夜、貰った名刺を前に溜息を吐く。

松永さんと話した後で遅れて中に入った私を見て、高本さんはにやりと笑っていた。

その時は何も言い出さなかったけど、仕事を上がる前に栄養事務室のデスクまで来て、ぽそりと耳打ちして聞いた。



「まっちゃんに何か言われたの?」


見てたのか…と思い驚く。
まさか映画に誘われたとも言えず、単純に金曜日のお礼を言っただけだと嘘を吐いた。


「そのままの勢いで付き合っちゃえばいいのに」


高本さんの考えはぶっ飛んでいる。
私は肩を怒らせて、「とんでもない!」と声を張り上げた。


バツイチでコブ付きの私が誰と付き合う?
そんなことができるのなら、この十年近くも一人でなんかいなかった。


「私は一人でいいんです。誰とも付き合ったりはしません!」


断固として反対した。
プイッと他所を向く私に、高本さんは少し呆れ気味な様子だった。


「勿体無いなぁ。イイ感じなのに」


何処を見てそう思うのかは知らない。
そんな風に見られるのなら生協の班も脱退したい。



(でも…)


…と思いつつ見つめるチケットと名刺。
さっきからこの連絡先に、何と言って連絡すればいいのかが分からず悩んでいた。


今更、松永さんに「行きません」とは言えない。
観てみたい映画ではあるし、行けば久し振りに気晴らしができそうな気もする。

< 33 / 258 >

この作品をシェア

pagetop