幾久しく、君を想って。
これが女性同士と言うならまだ気持ちも軽い。
だけど相手は男性だし、しかもまだよく分からない人だ。

家族がテーマの映画をバツイチ同士で観に行くというのも変な気分がする。
私なら観て貰えそうだと彼は思ったようだけど、これが希望のSF映画だったとしたら、誰と観に行くつもりだったのか。



「しんみりと後で話せそうだと思って」


家族や夫婦について語り合えそうだと思われた。
私には拓海という息子がいるけど、彼には子供がいるんだろうか。


夫も妻もいない身分で、夫婦について何を話すと言うんだろう。


過去の失敗談でも話すつもり?
そしたらそのうち愚痴も入り混じって、怒りなんかもミックスされてしまうだろうに。



(そうなるとしんみりでも何でもなくなるじゃない)



考え出すと止まらなくなって、おまけに勇気も出せない。
私から連絡するしかないのに、いつまでもうじうじと悩む。


ぼうっとしたまま頰杖をつき、目線を壁に走らせる。
奥の部屋で寝ている拓海のことを思うと、余計に迷いが生じる。


今日は学校でマラソンがあったらしく、疲れたから寝る…と言い、早々にベッドへ入って眠ってしまった。

松永さんに連絡をするとしたら、今夜が適しているだろうと思うが迷う。

子供みたいに「付き合って下さい」と言う訳じゃないのだから、緊張する方がどうかしている。


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