幾久しく、君を想って。
(この後は?何を言えばいい?)


チケットを前にして言葉が出ない。

「えーと…」と言ったまま口籠りそうになると、松永さんの方から切り出してくれた。



「日曜日のことなんですが、後から電話をかけ直してもいいですか?今裸なんで、何か着てからかけます」


「えっ!」


目を丸くした。


「丁度風呂に入ろうかと思ってたところだったので、全部脱いでしまってて…」


「それなら先にお風呂へどうぞ!私はまだ寝ませんからごゆっくり入って!」


叫ぶように願って通話終了をタップした。
早打ちする胸の前で、握ったスマホが震えている様な気がする。


慌てて切って驚いたんじゃないだろうか。
でも、裸のままでいたんだとしたら寒いだろう。



(……そんな格好のままで電話に出るなんて…)


何を考えているんだ、あの人は。


(風邪なんか引かないでよね)


名刺に向かって息を吐く。
優しそうに笑う人の顔を思い出して、かぁ…と頬が熱くなるのを覚えた。



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