幾久しく、君を想って。
「息子さんには何て言ったんですか?」


不意に尋ねられ、「えっ」と声が出てしまう。


「無理のように誘ってしまったから良かったかなと思って」


なんだ、それを気にしていたのか。


「まだ何も言ってませんけど大丈夫です。私に用事がある時は、実家に行く約束をしています」


「実家?そこに住んでるんじゃないんですか?」


金曜日には送ったのに…と言いたげだ。


「普段は隣にあるアパートに住んでるんです。目と鼻の先だし、何かあったら助けて貰えるから」


実はそのアパートの管理人をやっているのは両親だ。

経営は以前からしていて、一部屋空いたのを機に、私と拓海がそこに引っ越し住んでいる。

 
「そうだったんてすか。じゃ安心ですね」


ホッとしたような息を吐き、弾むような声が聞かれた。


「だったらデート気分で会いましょう。その方が気楽に楽しめると思うし」


「えっ…デート?」


その方が気構えると思うけど。


「仕事の関係者として誘った訳じゃないので、俺もそのつもりで行きます」


大丈夫ですよ、大人らしいデートですから…と続ける。


(大人らしいデートって何?お酒でも飲んだりするの?)


久しく誰とも会ったりしてないせいか悩む。
無言になってしまった私に、松永さんからこんな言葉が掛けられた。


「映画を観た後で食事でもしましょう」


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