幾久しく、君を想って。
出勤時間は九時だけど早目に出かける。
前に勤めていた給食センターよりも今の職場の方が遠いからだ。


遠くなったのは実家の隣に越してきた所為もある。

前に住んでいたワンルームマンションなら職場にも近くて良かったけど、毎月の家賃を支払っていくのが惜しい。

何れはお金が掛かるようにもなる拓海の為に、経費を少しでもいいから削りたい。


そんな話をしたら、隣の空きアパートに住むなら家賃は一万円でいいと言われた。

その一万円ですら最初は要らないと言われたが、私は払いたいと両親に願った。



立派な結婚式も出して貰ったのに離婚した。
私だけが悪かったのではないが、やはり原因は私だろうと思う。


少しでも両親にお金を返したいという思いがある。
一万円如きを支払ったからと言って、何の足しにもなりはしないのだけど。

何かあった時は手助けも出来るし、それをしないといけないという気持ちもあって、この部屋に住んでいる。




「そろそろ出よう」


メイクも手抜きで出掛ける。
昨夜の寝不足が響いてファンデーションのノリが悪い。


アパートの前にある駐車場へ行けば、母が早くからゴミ集めをしている。
「マナーが悪い」と零しながら、タバコの吸い殻を箒で掃き集めていた。



「お母さん、行ってきます」


声をかける相手がいるというのはいいことだ。
一人ではないんだ…と思える。


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