幾久しく、君を想って。
ガクッと肩を落としつつ部屋を出た。
実家の前で両親と拓海に会っても、これなら別におかしいと思われないからいい。

内緒で男性と映画を観ることが気まずく感じるくらいなら最初から断っておけば良かった。

離婚して以来、誘われることもなかったから、少しは嬉しく思ってしまった。


今回だけでいいから、男性と待ち合わせみたいなものをしてみたかった。

母親であり続けることに不満も何もないけど、ただ少し、華やいだ時間を持ちたい……。



(そうよ、別に悪いことをしてる訳じゃないんだから)


過去と同じことを繰り返そうとしている訳ではない。
堂々と大人らしいデートを楽しんでくるだけ。


松永さんもそのつもりで来ると言っていた。
あの優しい人柄に触れるだけで、今日はきっと癒される筈。


そう思うと気分が軽くなった。
笑いながら歩いた夜と同じ様に、楽しい時間が送れたらいいな…と願った。


< 50 / 258 >

この作品をシェア

pagetop