幾久しく、君を想って。
複合型の商業施設に着いたのは九時五十分。
ギリギリセーフ…と息を吐き、直ぐに車を降りて歩き出す。

緊張している所為か、足元がフワフワしている。
心臓もドキドキして、妙に落ち着かない。


松永さんの方はもう着いているだろうか。

彼の私服姿を見たのはこの間が初めてだったけど、あの時と同じく、カジュアルな雰囲気でいるだろうか。


私を見てどう思うだろう。

なるべく所帯染みて見えないようにはしたつもりだけど、自信は全くもってない。

学校行事に来た親のように見られると悲しいけど、そう見られても仕方のない様な感じだ。



エレベーターの前で立っているとドアが開いた。
覚悟を決めて乗り込み、深呼吸を繰り返して階の表示を見つめる。

4階からの数字が3、2、1…と減っていくにつれ、息苦しい様な気分に襲われる。

ドアを開けた瞬間、目の前に彼が居たらどうしよう。

驚きと同時に心臓が飛び出してしまうんじゃないのかーー。



怖気付きながら必死で堪えて外へ出ると、幸いにも彼が居らずホッとする。

噴水広場はエレベーターを出たら真ん前にある。

そこにあの人は居るだろうかーー。


建物内と外を仕切るガラスドアを開けたら、路面から定期的に噴き出される水音がパシャン、パシャン…と響いてくる。

その吹き出し口を子供達が足で踏んで止めている。


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