幾久しく、君を想って。
止められた水は圧縮されて勢いよく飛び出し、辺りが水浸しになって冷たさが増す。

夏はいいけど冬は勘弁して貰いたい。でも、冷たい空気が気持ちよくも感じる。


ドアを開けて直ぐの場所で、ぼんやりとしたまま、その水音と空気に触れた。

一瞬待ち合わせをしていることも忘れ、ぼうっと眺め続ける。


拓海が幼い頃も同じことをして遊んでいたな…と、母親の心境に戻っていた。




「宮野さん…?」


背後から声が聞こえ、えっ…と声を出して振り向いた。

背の高い男性と目が合い、ドキン!と胸を打つ音が響く。



「まつ…ながさん…」


ぼんやりしていた所為か、急に現れた現実についていけない。

皮製のジャンパーを着た人が彼だと思えず、じっ…と見てしまった。



「すみません、俺の方が早く着いておくつもりだったのに」


照れくさそうに笑う人に合わせ、唇の端を引き上げる。
引き攣りそうに感じるのは、自分が凄く緊張している所為か。


「…いえ、私もついさっき来たばかりです…」


待ち合わせというのは、こんなにも心ときめくものだったろうか。

過去の人と初めて待ち合わせをした時も、同じ様に緊張しただろうか。


ずっと目を見合わせていると気後れしだして、するっ…と視線を横に逸らせると、頭の上から声が降り注いだ。


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