幾久しく、君を想って。
それを気にも留めず歩み進める松永さん。
後ろで歩調を合わせる私は、彼の何に見えているのだろう……。



ドリンクの販売カウンターで何を飲むか聞かれ、「コーラにしようかな」と言ったら意外がられた。

コーヒーにするのかと思っていたらしく、どうして私がコーヒーを飲むと思っていたのかと問えば、「何となく」という返事が戻る。


知らないというのはこういう事なのか…と実感する。
『想像と違う』という言葉は、案外と思い込みからくるものなんだろう…と思う。


RとLサイズのコーラを注文し、代金は自分が払います、と彼が言う。

「俺が誘ったから」と言われると、それでも払います…とは言えず奢ってもらった。


コーラを乗せた紙トレイを受け取る前に、自分のチケットを私に渡した松永さんは…


「俺の分も渡して下さい。人混みの中では、コーラを持ったままで渡すのは至難の技なんで」


そう言って頼んだ。

了解です、と言って受け取りながら、毎回きっと、こんなふうに女性に頼んでいるんだろうなと思う。


ちくん…と胸が痛いような気もする。
彼が誰と何処へ行ったとしても、嫉妬する必要もないのに波打つ。


今日だけの相手なんだから気にしないでおこうと切り替える。
精々大人らしくしようと決めて来たじゃないか…と振り返った。



(そうよ。今日だけの相手だ、私は…)


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