幾久しく、君を想って。
天井のライトが灯され、客席が明るくなる。

ザワザワと賑やかになるシートのあちこちで、啜り泣く女性の声や鼻水を吸う音が聞こえる。

「いい映画だったね」と囁き合う女子達がいるかと思えば、「泣くなよ」と優しく女性の肩を抱く男性の姿も見える。


そんな中で私はただ、ぎゅっと唇を噛みしめ続けていた。
口を開けば怒りだしそうで、ぐっと我慢していた。


「出ましょうか」と右隣にいる松永さんが聞いてくる。
「はい」と答えたものの、なかなか立ち上がることが出来ない。


いろんな思い出を掘り起こされた今、胸の中が騒ついていけない。
出来ればこのまま家に帰り、観た映画の全てを忘れ去りたいーー。



「宮野さん、大丈夫ですか?」


声をかけられ、そちらを振り向く。
前屈みでこっちを見ている松永さんに気づき、こくっと頷くが平気でもない。


怒りや苦しさで叫び出しそうな気がしている。
ワナワナ…と震えている足に力を入れ、なんとか立ち上がったのはいいけれど歩み出せない。


思いきって前に出したのはいいが、歩き出して直ぐにコツン…と爪先が躓いた。



「あっ…!」


短く声を発して、前の人の背中に顔をぶつける。
驚いたその人は振り返り、上から心配そうな目を向けた。


「す…すみません」


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