幾久しく、君を想って。
手繋ぎの後のキスは
一階の噴水広場まで来て、気持ちが少し落ち着く。
パシャンパシャンと跳ね上がる水音と、ひんやりとした空気に包まれたからだろう。


スーッと息を吸い込んで吐く。
喉の奥が涼しくなって、体の熱が溶けていくようにも感じる。



「あそこに座りませんか?」


松永さんの指差す方向に、グリーンカラーで塗られたアイアン製のガーデンベンチが置いてある。



「いいですね」


返事をして、二人でそこへ向かう。


映画館を出てからこっち、松永さんは私と手を繋ごうとはしない。

躓かないように肩を抱いたのだって、本当はしたくなかったのだと思う。


映画を観た後でそんなことをしたら、私の気持ちが彼に擦り寄っていくのではないか。

変に気遣って優しくしてしまうと、そうなられた後が困ると考えたのではないか。



そんな深読みをしながらベンチに腰掛けた。
丁度外階段の隙間から日差しが溢れ、少しだけど暖かい。

パシャンパシャンと跳ね上がる水音だけを聞いていると、心地のいい音楽を耳にしているようにも思える。

映画を観た時に蘇ってきた過去も、この水音が流してくれればいいのにーー。



隣に座っている人も静かだった。

家族や夫婦について語り合うつもりでいた筈なのに、何も言おうとも聞こうともしてこない。


黙ってじっと上を向いている。
私は反対に、ずっと下を睨んでいる。


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