幾久しく、君を想って。
どれ程の時間が経っただろうか。
黙り込んでいた松永さんの口から「はーっ…」と深い溜め息が聞こえた。
視線を向けると、背凭れに背中をくっ付け欠伸をしている。
それから「あーあ」と声を出して、膝を組んでから横を向いた。
そのままじっとして黙りこみ、私の横顔を見つめているようだ。
私はその視線に気づきながらも、敢えて彼の方を向こうとはしなかった。
「……宮野さんと俺は、対照的でしたね…」
その言葉に振り向き、「は?」と声を漏らす。
驚いたように彼を見たら、ほやっと目尻を下げられた。
「俺はあの映画を観ながら泣きそうになったのに、宮野さんは逆に怒り出しそうな雰囲気でした」
ぐうの音も出せずに見守っていた。
そんな私を見たまま、彼は映画の話を続けた。
「俺にはあの主人公の気持ちがよく分かりました。人を愛するということは、時に自分を蔑ろにすることでもあるんだよなぁ…って思った」
その言葉に感情が逆撫でされる。
自分を蔑ろにするということはつまり、家族や妻も蔑ろにするということではないのか。
蔑ろにした結果、自分は守られるかもしれないが、家族や妻は傷付くだけではないのか。
怒りが増して堪えられなくなってくる。
我慢しなければ…と思うのに、どうにも気持ちが収まらない。