幾久しく、君を想って。
さっきよりもハッキリと、柔らかさと熱を感じる。
電流が走るようにビクついてしまい、クスッと小さく笑われた。


「可愛い反応」


かぁっと体が熱くなるのを覚え、「や、止めて下さい」と声を振り絞った。


今日はこの人とこんな関係になりたくて来たんじゃない。
離婚届の話も、映画を見た後の感想だ。


「揶揄わないで下さい。そんなつもりで来てません!」


彼の手から指先を抜き取り、お尻を後ろへとずり下げる。

距離を空けると、松永さんの残念そうな溜息が聞こえた。


「あーあ、やっといい雰囲気に持っていけたのに」


しまった…と呟き、体ごと正面に向き直る。
こっちは彼の態度がコロコロ変わり、それについて行けずに面食らった。


ちらっと視線を走らせてくる彼にビクつき、体が過敏な反応を示す。
警戒心を前に押し出す私に向かい合わせたように座り、彼が頭を項垂れた。


「すみません!早まりました!」


「…は?」


早まったとはどういう意味か。
また分からなくなってくる。


頭を上げた松永さんは照れくさそうな顔をしている。
目線を私に向けるのも憚かるらしく、少し下げた状態で言い訳した。


「俺、今日までいろいろと考え過ぎて、朝からかなりテンパってたんです。ずっと気になってた宮野さんとデートできたことが年甲斐もなく嬉し過ぎてどうかしてました」


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