幾久しく、君を想って。
「さっきも言いましたけど、俺ずっと宮野さんのことが知りたくて仕方なくて。映画にでも誘えば、もっと親しくなれるかなと思ったんですが…」



そう言うと少しだけ黙った。
もしかしたら最初から、私を誘うのが目的で試写会に応募していたのかも。


「……あの映画は失敗でした。過去がいろいろと思い出されて辛すぎた…」


残念そうに囁き、私にも「そうでしょう?」と聞き返す。


いいえ…とは言いだせない。
過去を思い出して、彼を怒鳴った後だから。




「……そう、ですね…」


嫌と言うほどに思い出した。
別れた夫と松永さんを比べてしまったのも、きっとその所為だと思う。



「だから…」


そう声を発した人を眺める。
バツが悪そうではあるけど、少しだけ笑みを見せられた。


「リベンジさせて欲しいんです。今度はもっと、楽しい気持ちになれる様なものを観ましょう」


また映画ですか?と言いたくなるのを堪える。
映画でもいいけど、彼となら他のこともしてみたい。



「駄目ですか?」


窺うように前かがみの姿勢を取った。
駄目という訳ではないが、彼とは立場が違いすぎるような気がする。


私にはコブが付いている。
同じバツが付いていても、松永さんはきっと子持ちではない。




「私…」


どうやって断ればベストだろう。
子供が居るから駄目です…とでも言うべきか。


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