幾久しく、君を想って。
一晩経ってもその事実が消える訳でもなくて、思い返す度にドキッとしたり、ヒヤリとしたりを繰り返している。


「失態って何があったの?」


完全に楽しんでいるなとしか思えない会話になりつつある。
どうかもう気にしないで主婦業に専念して下さい…と頼み、それじゃ…と別れの言葉を口にした。


「ツレないなー!」


子供のように駄々をこねる彼女を説き伏せ、「詳しくはまた今度に」と言って電話を切った。

やれやれとスマホをコートのポケットに押し込んでから車の中を出て行く。


今日は一日中、仕事をしていても何処か落ち着かなかった。
何となく上の空になりそうで、それを必死で食い止めながら働いた。



ピンポーン…とインターホンを鳴らす。
仕事の帰りに拓海を迎えに実家へと寄った。



『…はい』


拓海の声が聞こえ、「お母さんよ」と短く答える。
何も言わずにボタンから手を離したらしい拓海が、紺色のランドセルを背負いながら出てくる。


「おばあちゃん、またね」


母にはちゃんと声をかけてくるのに、私の顔を見ればだんまりと口籠る。

これが小さい頃ならもっと嬉しそうな顔をして、「お母さん!」と言いながら走り寄ってきたのに。



「帰ろうか」


寂しいな…と思いながら問いかけると、目も合わそうとせずに歩き始める。


その背中を見ながら少し悲しい気持ちに陥る。

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