幾久しく、君を想って。
私の育て方は、何か間違っていたんだろうかと悩む。



「…ねぇ、拓海」


そう思っても声を掛けずにはいられない。
私以外にこの子の親だと名乗れる者は居ないのだから。


「今日、学校はどうだった?」


楽しいのかそうでないのかも教えてくれない日々が続いている。
自我の目覚め掛けた子供とは、どう接していいか迷うばかりだ。


「普通」


アパートの敷地に入り、ようやく返事が戻る。


「どんな風に普通だったの?」


そこが詳しく知りたいのに、「別に何もないよ」と言って終わる。


「もっと教えて欲しいな」


そう言うと煩そうな目を向けられる。
聞けば聞くほど嫌がられて、どうしていいか分からなくなる。


「『特になし』だよ」


念押しするように答え、それが返事か…と言って怒りたくもなる。
それをすればきっと、もっと煙たがられてしまう。


「友達とはケンカしてない?」


こくっと頷きだけが戻るが、それが事実かどうかも判別し難い。


拓海が今の小学校に変わったのは、三年生の途中からだった。
それまでは前に住んでいたワンルームマンションの近くにあった学校へと通っていた。


転校して直ぐは既にグループみたいなものが出来ていて、なかなか話し掛けて貰えないと零していたが、転校後にあった家庭訪問では、「皆と仲良くやっていますよ」と担任の先生に教えられた。


< 83 / 258 >

この作品をシェア

pagetop