幾久しく、君を想って。
前みたいに手を握られたら、必要以上に心臓が動くのではないかと案ずる。


「あ、宮野さん」


呼ばれただけなのにビクッとなった。
背中を伸ばしたままで、目だけを彼に向ける。


「はい?」


そう言っただけなのに、彼がほやっと笑みを見せる。
意識も何もしていない筈が、きゅんと胸が鳴り響いた。


「すみませんけど、お願いがあって」


お願い?
後から時間を下さい、だろうか。


「はい、何ですか?」


トラックが着いたことは、多分皆もう気づいている。
ノロノロとしていれば、そのうち厨房や事務所から出てくるだろう。


「あの…メール送ってもいいですか?」


「えっ」


「ちょっと話したいなって気がする時とかに送りたいなと思うことがあって。駄目ですか?」


「い、いいえ…」


むしろお願いします…と言いたいのを堪えながら、いいです…と言葉少なく返事をした。


「良かった…」


安心した様に笑い、「じゃあ今夜にでも早速します」と囁いて外へ出て行く。

こっちは気持ちを残された様な状態で、ぼうっとその場に立ち尽くしてしまった。



「松永さん来たの?」


厨房のドアが開き、中から高本さん達が顔を覗かす。


「えっ、ああ…はい。そうです」


間の抜けた返事をして、事務所にも連絡してきますね…と事務室へ逃げた。


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