切手に想いを添えて
お祖母ちゃんの御葬式には凄い数の人が来てくれた。

お祖母ちゃんの交遊関係が広かったとはいえ、それでも予想以上の人が足を運んでくれた。

だから、このおばあさんの顔を覚えていないのはしょうがないだろう。




「おばあちゃんとはどこで知り合ったんですか?」




「久枝さんとはね、女学校で知り合ったのよ。
直ぐに意気投合して、色んなとこに出掛けたわ~
そうそう、ここにも良く二人で来たのよ。」




「ここにですか?」




私はぐるっと郵便局の中に視線を巡らせた。




「ここってそんな前からあるんですか?」




「そうね。今は改装されてとても綺麗になったけれど 、 5 , 60年くらい前からあるわね。

あの当時住んでいた家の近くに郵便局がなくて、久枝さんの家の近くのここまで学校帰りに来てたのよ。 」




おばあさんは昔の記憶を思い出したようでふふふと可笑しそうに笑った。




「その当時、私は知り合いの方と文通を始めたことが切っ掛けで、切手を集め始めたの。

手紙を出す時に、その時の季節や、受け取った人の事を考えて、どの切手にしようか考えるのがとても楽しかったわー

手紙をもらった時も、素敵な切手が張ってあると嬉しかった。

送って下さった相手の心遣いが見えるようでね。

かきつばたの切手が張ってあった時は、私の好きな花を覚えていてくれたことが嬉しくて、その手紙を暫く眺めていたわ。

在りし青春の良き思い出ね。」





「素敵な思い出ですね。」




遠い日に想いを馳せるおばあさんの暖かい微笑みに、その知り合いの人は、おばあさんの好きな人だったのではないかと私は思った。




「祖母もその頃から切手を集め始めたんですか?」




「ええ、そうね。」




「そうですか…
祖母はそんな昔から切手が好きだったんですね。」




「ふふふっ、久枝さんはね、切手が好きで集め始めたんじゃないのよ。」




「えっ?」



< 13 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop