切手に想いを添えて
「桐ヶ谷さん!こ、こんにちは。」



「雨、酷いですねー
良かったら中でお待ちいただいても大丈夫ですよ?」



「いえ、大丈夫です!急いでいるので走って帰ろうと思ってたところなんです!」


ごめんなさい!嘘つきましたー!
ニートの私に急ぐ用事なんてありませんからー!


桐ヶ谷さんと話せて嬉しいのに、私はいつの間にかこの人に会うと恥ずかしくなるようになっていた…





簡単に言うと、私は桐ヶ谷さんが好きなのだ。





初めはただのイケメンさんだと思っていたけれど…

何度も郵便局に通って何気ない会話をするうちにこの人の優しい笑顔に、何気ない気遣いが出来る優しさに引かれて…

好きになっていた…

その笑顔も営業スマイルなんだろうし、そりゃあ笑いかけてくれるのも優しくしてくれるのも私がお客さんだからだってのは分かってるんだけど…

どうしようもなく好きなんだよな~

郵便局に来ると自然に探してしまうほどに…





「でも、この雨の中帰ったら風邪引いちゃいますよ。」




「私、体は丈夫な方なので大丈夫です!では…」


と、雨の中に飛び出そうとしたが…


「あっ、待って下さい。」


桐ヶ谷さんが私の腕を掴んでそれを止めた。






腕がぁぁぁぁぁー

腕が熱いぃぃぃぃぃー






桐ヶ谷さんが掴む腕が溶けそうなくらい熱く感じた。

それが全身に広がって今にもスライムみたいに溶けてしまいそうだ…



「あ、あの…」



「これ、使って下さい。」



そう言って桐ヶ谷さんは持っていた傘を差し出した。



「お借りするのは申し訳ないです!
それにこれお借りしちゃったら桐ヶ谷さん帰る時どうするんですか?」



「これ、局の皆で使ってる傘で他にもあるんですよ。
だから気にしないで下さい。」



傘を私に握らせると、「気をつけて帰って下さいね。」と郵便局の中に入っていった。







やばい…

心臓が壊れそうだ…







傘を開き、今にも叫び出したい気持ちを押さえて私は雨の中に飛び出した。


水溜まりも気にせず駆けて行く。


雨は、徐々に薄くなった雲の間から漏れる斜光へと変わり、私が走る道を照らしていく。



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