《短編》遠距離なぼくたちの甘い新年の迎えかた《改訂版》
「そんなに痛かった?」

「いや、たいしたことないよ」

 まっすぐ、不安げに見上げるからいとおしくってキスをした。

「はい、おしまい。いくよ」

 手を引いて夜の公園を歩き出す。

「えー」

 不服そうな顔も可愛い。

 可愛いけどすでに足の裏は真っ黒なはず。見た目が大人っぽくなっても、中身はちっとも変わってない。

「おい、ヒール片っぽどこいった?」

「あー。たぶんアレだ」

 麻里が宙を指差した。
 見上げるとサクラの樹の入り組んだ枝に、ベージュのヒールが突き刺さっていた。


 (JIMMY CHOO )


 この綴り知ってる。麻里が高校の頃から憧れてたちょっとお高いブランドだ。ファッション誌をめくりながらうっとりしてたっけ。

 木の向こう側にぽっかり浮かぶ月が、小枝の隙間から柔らかな光をこぼしている。その光がヒールの甲をそっと照らす。夜の目印みたいだ。

「ほら」

 半ば強引に麻里をおぶって、靴を取らせた。

「降りないの?」

「……もうちょっとだけ」

「別にいいけど……」

 俺の背中にぴったり顔をくっつけている。


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