《短編》遠距離なぼくたちの甘い新年の迎えかた《改訂版》
「初めてもらった給料で買ったんだろ?」

「うん、でも都会を歩くための靴は疲れるんだぁ」

 麻里は東京でアパレル関係の仕事に就いていた。

「でも大事にしなきゃ」

「そだね」

「いい靴はいい女の証なんだってさ」

「ふぅん」

「ちゃんと聞いてる?」

 返事がなくなった。まさか、この短時間で寝た?

「麻里?」

 声をかけてみたけれど、やはり返事はない。
 さぁ、どこまで担げば起きるんだ? このままおまえんちまで行けってか? まぁそれでもいいか。この足で履いたらあの綺麗な靴が台無しだ。

「ねぇ、さっきのグミ何味? 俺甘いの苦手だけどあれ好きかも。コンビニに売ってる?」

 返事はない。

「あのさぁ、このままベッドまで運ぶからな? 襲われても文句言うなよ?」

 うん、やっぱ寝てる。カウントダウンは一緒に過ごそうねってそっちから言っときながら普通寝るか? さっきの台詞半分本気だかんな。

 首筋の辺りに規則的な呼吸。それがすこしくすぐったい。

 疲れてるのかな。疲れてるんだろうな。
 麻里のことだから仕事もきっと全力投球。毎日頑張ってるに決まってる。しょーがないから起きるのを待っててやってもいいかな。

 
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