3センチHERO
「あら、ポケットから何か出ているわよ? 人形かな。高校生にもなって珍しいわね」
三枝くんに気づいた彼女は、私の胸ポケットに目線を近づける。
可愛いわ、などと呟きながら微笑むと、突然驚きの声を上げた。
「う、動いてるじゃない…!」
青ざめた表情で頭を抱える女性。
恐怖と混乱でパニック状態になっているであろう頭を冷静に戻すため、三枝くんは声を発する。
「俺だよ、母さん」
「えっ…」
一番聞き覚えのあるその声に、ピクリと体が反応した。
ゆっくりと振り返って、その姿を確認する。
先ほど見た人形らしきものは、柔らかい笑顔をしていた。
もしかして、と彼女は目に涙をにじませる。