3センチHERO

「ただいま、今帰ったぞ」


がちゃりと扉の開く音とともに、低い男性の声が聞こえた。


もしや、と玄関先の方を眺めてみれば、同時に子どものような声もする。


「あら、おかえり」


声のする方へ嬉しそうな言葉を並べ、ちょっと待っててね、とたちまち駆け出して行く三枝くんのお母さん。


何気ないような現実に、三枝くんの表情はどんどん曇る。


血の繋がった本当の家族よりも、再婚相手をとるなんて。


そう言いたげな目に、私もつい切なげな思いにさせられた。


「……でね、今お客さんが来てるのよ」


「客? 誰か呼んだのか?」


「うーん。呼んだというか、帰ってきたというか…」


まあ見れば分かるわよ、と私たちには見せなかった乙女ばりの可愛らしい様子で、ふふ、と笑う。

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