3センチHERO
何度も手で拭っては、涙も思いも閉じ込めようとするけれど、そうすればするほどに、溢れていく。
「そうだよな、鳴海」
俯いていた顔をあげると、三枝くんがこっちに柔らかい目線を合わせて微笑んでいるのが瞳に映る。
「鳴海? 泣いてんのか?」
大丈夫か、とクラスメートの波を割って近寄ってきてくれる親切な彼の優しさを、私は上手く受け止めることが出来ないような気がして、一歩一歩と後ろに下がった足は、もう誰も止めることなんて出来やしない。
「ごめんなさい…」
どんな思いで口にしたかも分からない言葉を教室に置いて、私は廊下を飛び出していた。
「鳴海っ!」
遠くの方で聞こえた大切な人の声は、大きく鳴り響くチャイムと共に消えてゆく。