イケメンエリート軍団の籠の中
「………はい」
舞衣は小さな声で返事をして、持っていた雑巾をすぐに後ろに隠した。
「あと、もう5時過ぎてるから、今日は帰っていいよ」
トオルはいつもの優しい瞳をメガネの奥から覗かせ、舞衣の頭をポンポンと優しく叩いた。
「………はい」
舞衣はもう一度そう言うと、その雑巾を持って洗面所へ急いだ。
洗面台で雑巾を洗っていると、悔しかったり切なかったりで涙が出てくる。
この超一流企業で働くことの難しさに思いっきり直面した。
私は一流の人間じゃない。
ジャスティンが、皆最初から一流じゃないよって言ってたけど、一流になるまでには少なからず一流のふりをして過ごさなければならない。
でも、私、一流のふりもできないみたい。
だって、私が大切に育ててきた価値観は、皆の嫌がることを積極的にやること…
雑巾がけだって立派な仕事で、それでこんな風に怒られるなんて夢にも思わなかった…
舞衣は誰にも気づかれないように女子部屋へ行き、帰り支度をした。
このたったの二日の間に、目まぐるしく舞衣の世界は変わった。
疲れた……
なんか、前の世界の方が私にはいいみたい……
舞衣は凪に買ってもらった高級のスーツを脱ぎ、自分の安物のスーツに着替え小さくため息をついた。