女王様は憂鬱(仮)
*
「期待なんかするかっつーの!」
ビールジョッキを一気に煽り、テーブルに叩きつけるように置く。
時間が経てば経つほど、怒りが収まるどころか膨れ上がってくるような気がする。
そんな私を見た今夜の約束の相手──金光清香が、笑いながらもずく酢の入った小皿を差し出してきた。
「カリカリしてると、美容によくないよ?」
「……なんで、コレ?」
「お酢は健康にも美容にもいいって聞くから」
「……は?」
「それに、今の京香に酸味を足せば、イライラも収まるんじゃないかと思って」
「勝手に人を料理しないでくれる?」
呆れたように返せば、清香はくすりと笑った。
「で? 京香をそこまで怒らせた男って、何者? 一体その男に何されたわけ?」
「何されたって……」
──何もされていない。耳は甘噛みされたけど……。
あの時、キスされると咄嗟に思って身構えたのは、自意識過剰なんかじゃない。あの男の吐息が唇にかかるのを、私は確かに感じたのだ。
もちろん、もし本当にされていたら、思いっきり噛み付いてやるつもりだったし、急所を蹴り上げてやろうとも思っていた。
だけど、あいつは寸前で方向転換し、終いには私を完全に見下したのだ。
『うっかりキスしてその気になられても、迷惑だから』
『……はぁっ!?』
『苦手なんだよね。君みたいに気の強い女』