女王様は憂鬱(仮)




「期待なんかするかっつーの!」


ビールジョッキを一気に煽り、テーブルに叩きつけるように置く。
時間が経てば経つほど、怒りが収まるどころか膨れ上がってくるような気がする。


そんな私を見た今夜の約束の相手──金光清香(かねみつさやか)が、笑いながらもずく酢の入った小皿を差し出してきた。


「カリカリしてると、美容によくないよ?」

「……なんで、コレ?」

「お酢は健康にも美容にもいいって聞くから」

「……は?」

「それに、今の京香に酸味を足せば、イライラも収まるんじゃないかと思って」

「勝手に人を料理しないでくれる?」


呆れたように返せば、清香はくすりと笑った。


「で? 京香をそこまで怒らせた男って、何者? 一体その男に何されたわけ?」

「何されたって……」


──何もされていない。耳は甘噛みされたけど……。

あの時、キスされると咄嗟に思って身構えたのは、自意識過剰なんかじゃない。あの男の吐息が唇にかかるのを、私は確かに感じたのだ。

もちろん、もし本当にされていたら、思いっきり噛み付いてやるつもりだったし、急所を蹴り上げてやろうとも思っていた。


だけど、あいつは寸前で方向転換し、終いには私を完全に見下したのだ。


『うっかりキスしてその気になられても、迷惑だから』

『……はぁっ!?』

『苦手なんだよね。君みたいに気の強い女』
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