女王様は憂鬱(仮)
第2章 女王様はお怒り
結論から言えば、清香の不吉な予言は、思いがけない形で現実となった。
新しい年を迎えたばかりの実働二日目、人もまばらな朝八時。
「……え? 異動って……私がですか!?」
私は出社するなり部長に呼ばれ、会議室で一月後の人事異動に関する内示を受けていた。
席に着くなり「こんな話はしたくなかったんだが」と切り出されたのは、思いがけない季節外れの異動話だった。
それも自分自身の──秘書課への異動だ。
「正直、営業部としてはものすごい痛手だ。何せ、うちの営業成績は君の功績によるものが大きいからね」
本当に上は何を考えているんだか──と、部長は盛大に溜め息をついた。しかし、それは私も同じこと。特に異動希望も出しておらず、営業成績も安定している私が、なぜ……?
あまりの衝撃により言葉が続かない私に、部長は少し困ったように笑って言った。
「これだけは言っておくよ。今回の異動は、もちろん君が何か不祥事を起こしたからとか、そういったマイナス要因によるものじゃない。優秀な君の話を耳にした上層部が、どうしても君の力を貸してほしいと、一年という期限付きの異動話を持ちかけてきたわけなんだ」
「え……一年だけ、ですか?」
「そうだよ。この異動にどんな事情があるのかまでは僕たちも教えられていないんだけど、一年後に必ず君を営業部に戻すという条件だったから、渋々了承したんだ」
部長を見る限り、嘘をついているようには見えなかった。
今回の私の異動話は唐突で、“一年限定”なんてワケありの理由についても、本当に深く知らされていないのだろう。
この会社に勤めて三十年近くになる部長でさえ、今回のような営業から秘書課への期間限定異動なんて話は聞いたことがないらしい。