女王様は憂鬱(仮)
その後到着したエレベーターにさり気なく私を先に誘導すると、園原さんは秘書課のフロアに到着するまで、これからの私の仕事について説明してくれた。
どうやら私は、専務の専属秘書になるらしい。
「あの、ご存知だと思いますが、私は秘書の経験が全くありません。そんな私に、いきなり専務の秘書が務まるでしょうか……?」
「心配しないで下さい。初めの一月は、僕があなたの教育も兼ねて、常に同行するようにしますから。隣で僕の仕事を見ながら、少しずつ覚えていって下さい」
「は、はいっ! ありがとうございます」
あからさまにホッとした私を見て、園原さんがクスリと笑う。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたのような優秀な方なら、秘書の仕事にもすぐに慣れます」
「そんな、優秀だなんて……」
──と、一応謙遜をしてみる。自分が優秀なことは、自分が一番よく知っているけれど、秘書課でまだ何の実績も持たない私が、今言っていい台詞ではない。
”自信過剰な女王様”だって、自分が置かれている立場はきちんと弁えているのだ。
十七階のフロアに到着し、今度は園原さんと並んで秘書課に向かった。
新しい職場が近づいてくる度、柄にもなく緊張が高まる。営業部は八割が男性社員だったけれど、秘書課は圧倒的に女性が多いと聞く。
(女のイジメなんて陰湿だし、変に目を付けられて足を引っ張られるようなことだけは避けなくちゃ。慣れるまでは、様子を探っておとなしくして……。ただでさえ、美人ってだけで妬まれやすいんだから……)
頭の中でこれからの身の振り方を考えていると、「そういえば」と園原さんが言って足を止めた。