女王様は憂鬱(仮)
「立花さんは、専務とどこで知り合ったんですか?」
つられて足を止めた私は、ぽかんと口を開けたまま首を傾げる。
「専務にお会いしたことなんて、ないと思いますけど……」
本当に心当たりなんてなかった。いくら優秀な営業ウーマンの私でも、ただの一社員であることに変わりはないし、そんな私が簡単に専務に会えるわけもない。
「そんなはずは……。専務は僕に、あなたを気に入ったから秘書にすると言って……」
そう言ったきり、園原さんは顎に手を置いて何か考え込んでしまった。
私の頭の中も、疑問だらけだ。
今回の異動の経緯を、営業部の上司ですらきちんと説明されていない。それに、一年という期限付き。目の前の園原さんは、専務自ら私を秘書に指名した、と言っている。だけど、私は専務に面識なんてない──……
これは、いくら考えても答えなんて見つかりそうもない。
「園原さん。やっぱり私、この会社の役員クラスの方との面識は一度もないと思います。もしかすると、専務は社内のどこかで、私のことをお見かけになったのかもしれませんね」
それで、私の美貌に惹かれたのでは──という言葉は、かろうじて呑み込む。けれど、これで今回の異動が『私の実力を上層部が認めた』ことによるものではないということがはっきりした。
会ったこともない専務が私の仕事ぶりなんて知るわけがないし、どうして私の実力が分かる?
大方、偶然社内で私を見かけ、側にいる人間に『あの美しい女子は誰だ?』とでも言ったのだろう。
(……俄然、燃えてきたわ……)
もしも本当にそんな理由で私を営業部から呼び寄せたのなら、私がいかに使える人材かを徹底的に分からせてやる。不純な動機で私を呼び寄せたことを、後悔させてやる。
(美人だからって、舐めるんじゃないわよ……!)