女王様は憂鬱(仮)
「忘れていました。一つだけ、始業前にいつもしていることがあります。専務は必ず朝刊に目を通されるので、出社後に専務の机へ置いておくようにしてください。ちなみにこの朝刊は、毎朝総務課の社員が秘書課まで届けてくれることになっています」
「あ、はいっ」
「専務のお部屋は、窓際にある扉の奥ですよ」
園原さんが指し示す先の扉には、確かに”専務室”というプレートが貼ってあった。
私の初仕事だ。朝刊をぎゅっと持ち直し、扉の前で小さく深呼吸をした。
──コンコン
もちろん、ノックしたところで応答はない。
「失礼します」と言って、私はゆっくりその扉を開け、中に入った。
「……」
入った途端に、言葉を失う。部屋の中が異様に暗かったからだ。
「こんなに窓がたくさんあるお部屋なのに、どうしてこんなに光を遮ってるの……」
勝手にブラインドをあげてよいものかと悩みながらも、ひとまず、一番近くにあったそれに手をかける。
すると、背後から「今、明るくされちゃ困るんだけど」と言う男の声が聞こえ、その声の主にブラインドを持つ手を掴まれた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
反射的に叫び声をあげ、じたばたと暴れ始めた私に、男が「暴れるな」と言いながら、私の口を手で塞いだ。
「んんんんんんーーーー!!!!」
嫌ぁぁぁぁーー! 殺されるーーー!!
もう駄目だと思ったその時、「どうしたんですか!?」という園原さんの声とともに、部屋が突然明るくなった。
そうか、電気を先につければよかったんだ──と、この時の私はパニックに陥っていて気づかなかった。