女王様は憂鬱(仮)
第3章 女王様の日常
秘書課に異動して一ヶ月が経った。
園原さんの同行もなくなり、今週から新米秘書として独り立ちしたばかりだ。
周りの社員より一時間早く出社し、この一ヶ月で学んだことを整理する時間として使っていたら、なぜかそれに合わせて専務まで早めに出社してくるようになった。
そして──……
「おい、コーヒー」
「……」
「無視するな。上司命令だぞ」
「……専務、まだ始業前なのですが」
にっこり笑って専務にそう答えると、「これは仕事じゃない」と真顔で返された。
分かっている。原因を作ったのは、私だ。
秘書課に異動後すぐのこと。朝のコーヒーを給湯室で入れていた時、たまたま専務がそこを通りがかった。
『香りのいい豆だな』
そう言われて、私は得意気に答えてしまったのだ。
『当たり前です。これは、市場にあまり出回っていない幻の珈琲豆なんです。昔、私に一目惚れしたブラジル大使館の──…』
この豆の素晴らしさと希少価値を延々と自慢していたら、『飲んでみたい』と言われてしまい、渋々自慢のコーヒーをお裾分けするはめになった。
『……美味い』
『それはようございました(当たり前でしょう!? 一体、この豆いくらすると思ってんのよっっ)』