女王様は憂鬱(仮)
それがきっかけだ。
すっかり私のコーヒーをお気に召した専務は、それから毎日、私にコーヒーを強請ってくる。
正直、いい迷惑だ。
私はこの男のために、高いお金を払って豆を買っているわけじゃない。
「大変申し訳ないのですが、専務、私が買い求めているこの幻の珈琲豆、一体いくらするとお思いですか?(なんで私が、高給取りのあんたに豆を貢がなきゃいけないのよ……!)」
私の心の声を正しく読み取ったらしい専務は、「あぁ、気づかなかった」と言いながら、胸ポケットから財布を取り出した。
そしてその中から諭吉を三枚取り、私に突き出したのだ。
「……」
「あれ、足りないのか? だったら……」
無反応な私の様子に勘違いした専務は、更に諭吉を取り出そうとする。
そこでやっと我に返った。
「ちょ、ちょっと! そこまで高くないですから!」
「……なんだ。だったら早く受け取れ。これで足りなくなったら、また言えばいい。気づかなくて悪かったな」
そう言って、専務は相変わらず三枚の諭吉を私に差し出してくる。
正直、拍子抜けだった。本気でお金を払ってもらうつもりなんてなかったから。
私が動けないでいると、専務は私の手を取り、しっかりと諭吉を握らせた。
「専務っ!」
いただけません──と返そうと思った私に、専務は笑う。
「なんか、援交みたいだな」
「……は?」
「あぁ、違うか。あんた、もういい歳だもんな」
「…………はぁっ!?」
最後にふふんと鼻で笑い専務室に消えていく後ろ姿を、私はブルブルと震えながら見送った。
怒りで、手の中の諭吉の顔がぐしゃぐしゃに歪んでいく。