女王様は憂鬱(仮)
「今日の来客は、園原に任せていい」
「え? でも……」
「園原の馴染みの客だから、あいつが顔を出した方が何かと都合がいいんだ」
「……分かりました」
私ではまだまだ力不足ということか……。
お客様にも、秘書である自分の顔と名前を早く覚えてもらいたいと思っていたのに、いきなり出鼻を挫かれた。
少し気落ちした私の目の前に、専務がバインダーを差し出した。
「立花には、別にやってもらいたいことがある。営業の経験を存分に発揮してくれ」
「営業の経験?」
何の事かとそれを受け取り開いてみると、最近メディアでもよく見かける、急成長中企業の社長のインタビュー記事がいくつかファイリングされていた。
「これは……?」
「その会社のことを調べてくれ。内容はそうだな……何でもいい」
「何でも?」
「そう。うちが業務提携をするメリットがあるかどうかを決める判断材料が欲しいんだ。立花は優秀な営業ウーマンだと聞いている。相手をリサーチすることは得意だろう?」
専務はそう言って挑戦的な笑みを浮かべた。
これは正しく、私への挑戦だろう。お前の力を見せてみろ、そう言われているのだ。
負けず嫌いの私はその意図に気づきながらも、心の中は「やってやろうじゃないか」という対抗心で燃えあがっていた。