女王様は憂鬱(仮)
「明日の午前中までに仕上げてくれ」
「……いいえ、今日中に仕上げます」
「今日? いや、明日でいい。残業は認められないからな」
「大丈夫です。営業はスピードが命。明日まで、なんて悠長な事は言っていられませんから。今日の定時前にはご報告させていただきます」
先ほどの専務と同じ挑戦的な笑みを浮かべた私に、しばし専務は呆然としていたようだが、すぐに持ち直しぷっと吹き出した。
「いいだろう。お手並み拝見といこうじゃないか」
受けて立つ!
私の心の中で、闘いのゴングが鳴り響いた瞬間だった。
*
相手の事をリサーチする。営業で培った経験を、まさか畑違いの秘書の仕事で活かせる日が来るとは思ってもいなかった。
このご時世、飛び入り営業で契約が取れるほど甘くはない。入念に相手の事を下調べし、今この会社にどんな切り口でいけば突破口が開けるか、いくつか武器を用意して乗り込むのが当たり前だ。
まずは基本的な企業情報を得るため、決算情報をくまなくチェックし、売上の内訳を知る。市場シェアの推移や年間販売台数データの推移をグラフ化し、販売チャネルの種類も確認。ネット上での製品口コミも読み込み、何がユーザーにウケているのかも確認した。
全ての判断材料が揃った上で、我が社とコラボレーションすることになった場合の将来予測を自分なりにまとめた。