女王様は憂鬱(仮)

川北は、ぽかんと口を開けていた。
しばしの間、流れる沈黙。「川北さん?」と呼びかけても、無反応。

彼女はまるで時が止まったかのように、瞬き一つせず、ただこちらを見つめている。

さっきまでの威勢はどこへやら……。

自然と溜息が漏れる。

何気なく腕時計に目をやると、思いの外時間を喰ってしまっていることに気づいた。

(しまった、待ち合わせに遅れる!)


「ごめんなさい。続きはまたにしてもらえる? 今日はもう時間がないの」


私は急いでバッグを肩にかけると、呆けたままの川北を横目に、この狭い空間から外へ抜け出した。

結局、何一つ彼女の質問(?)には答えていないけれど、あの様子だとまた月曜日にでも突撃してくるに違いない。

それはそれで、週明けから迷惑な話ではあるが、先程の川北の言い分に何一つ同意できなかったのだから、こちらだって言いたいことは言わせてもらう。

彼女が言っていたように、年の瀬は何かと仕事が立て込む。もちろん私も例外ではない。

営業という仕事柄、十二月になると、得意先への挨拶回りや、忘年会と言う名の接待に追われ、デスクワークに割ける時間が限られてくるのだ。

だからこそ少しでも自分の時間を確保するため、多くの社員が始業前の時間を有効に使い、事務作業の遅れを取り戻す努力をしている。

今朝だって、私が始業二時間前に出社した時には、既に営業部半数の社員がPCに向かっていた。

ギリギリまで自分の身嗜みチェックに時間を費やしている川北は、周囲のそんな努力など、知りもしないのだろう。
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