女王様は憂鬱(仮)

エレベーター待ちをしていると、持っていたスマホが震えた。

『今会社出た! 京香は間に合いそう?』

メッセージを確認し、返事を打とうと思ったところで、私は再び呼び止められた。正しくは、腕を掴まれた。


「待ちなさいよっ!!」


振り向いた先にある顔を見て、げんなりしてしまう。何と言うか───しつこい。


「まだ何か? 月曜日にしてもらえる? って、私さっき言ったわよね?」

「ふざけんな! あんた、私のことナメてんの!? なんなの、その態度!? そういうところがムカつくんだっつーの。そんなだから、女に嫌われんだよ!」

「あのね……」


ちょうどそのタイミングで、ポーンという音が響く。

どうやらエレベーターが来たらしいと頭の片隅でぼんやり認識しながら、私は軽く息を吸って川北に向き直った。


「あなた、私に喧嘩売るなんて百万年早いわよ。私が美しくて仕事もできることを、運だなんて軽い言葉で片付けないでもらいたいわ。私はね、あなたみたいな人間が一番嫌いなの。何が真面目な人間が馬鹿を見る、よ。私が知る限り、あなたはこれまで何一つ努力してるように見えなかったわ。合コンに行くために後輩に仕事を押し付けたり、男に会うために仮病使って早退したり、それがあなたの言う真面目な人間のすることかしら?」

「なっ、なっ……」

「言っておくけど、あなたのそういう仕事への姿勢は、とっくの昔に上司にバレてるのよ? 泣きながら残業している後輩を見れば、普通の上司は声かけるでしょ? まさか本気で気づかれないとでも思ったの? それに、努力なんてね、人にアピールしてするものじゃないの。皆見えないとこでやってるの。もちろん、私もね」
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