女王様は憂鬱(仮)

「いいのか? ああいう女は被害妄想が激しいから、あることないこと周りに吹き込むぞ」

「それを真に受ける様な低レベルの人間には、別に私も関わりたくないからいいの」


同じ営業部なら、ほとんどの社員(一部の女性社員を除く)が真実を知っている。

川北が何を言おうが、相手をするまともな人間は皆無に等しい。

そう自信を持てるだけの人間関係は築いて来たつもりだ。


「───いいね、君。男にもなかなかいないよ、そこまで潔い人間は」

「それ、褒められているのかしら?」

「もちろん。君のこと、もっと知りたいな。名前は?」


そう言われて自然と眉が上がった。
この男、さっきからいちいち癪に触る。


「名乗るほどの者じゃありませんから」


にっこり微笑み返すと、男は一瞬キョトンとしたものの、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。


「それ、仕返しのつもり? ひょっとして、けっこう根に持つタイプ?」

「仕返しだなんて! ……ただ、見知らぬ男に簡単に個人情報を渡す様な馬鹿じゃないだけです。あなたが名乗らない理由も、そうでしょう?」

「……まぁね。だけど、女はあらゆる手を使って、相手の情報を得ようとするからなぁ」

「それは男だって同じでしょう? どうやって人の携帯番号を入手するのか、不思議で仕方ないわ」


癪に触る理由がよく分かった。
この男───……


同じ匂いがする。
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