女王様は憂鬱(仮)
何もしなくても、自然と異性が寄って来る。
何もしなくても、異性トラブルに巻き込まれる。
何もしなくても、ただ微笑んだだけで、気があるのだと勘違いをされる。
きっとこの男も、私と同じタイプだ。
(うん、合わない)
これ以上、関わらない方がいい。
そう、私の中の本能が告げていた。
「私、そろそろ失礼します」
「あぁ、俺も帰るところなんだ。下まで一緒に行こう」
「ちっ」と心の中で舌打ちをする。
それに気づいたのだろう。男がふっと鼻で笑った。
「女に嫌がられるのは初めてだな」
「別に嫌がってなんか……」
エレベーターが閉まると、狭い密室の中、男と二人っきりという事実が変な緊張感をもたらす。
十五階から一階までの時間が、いつもよりやけに長く感じた。
「そんなガチガチに警戒しなくても、別に取って食ったりしないよ」
少し小馬鹿にしたような物言いにカチンとくる。この男にだけは下に見られたくない、と本能が訴えていた。
「警戒なんて、そんな。社内で女性に手を出すような大それた真似、あなたにできるとは思ってませんから」
今度は男が眉を上げる番だった。
「社内で取って食う度胸もないくせに」と暗に仄めかした言葉の意味を、しっかり理解したらしい。
少しだけ気分が良くなったところで、エレベーターが一階に到着した。