ビルの恋
よりによって、お風呂上がりの、ほぼノーメイクで再会するとは。

でも伊坂君も、今日はずいぶんカジュアルだ。

細かいチェックのシャツに、ジーンズ。

「よく来るの?」

伊坂君が聞く。

「20時前に上がれれば、ほぼ確実に。
伊坂君は?運動しに?」

伊坂君は首を振った。

「運動はしない。
シャワールーム代わりに使ってる」

なるほど。

忙しくて帰れないときにシャワーを浴びに来るのか。

「連絡くれないから、どうしたかと思って。忙しい?」

本当に連絡を待っていたのだろうか?
社交辞令でなく?

名刺をもらってから10日間、放置していた。

また会いたい気持ちはあったけれど。

期待をして傷つくのが怖い、という気持ちが勝っていた。

そんな私の気持ちにはもちろん気付かず、伊坂君は気軽に話を続ける。

「夕食まだだったら、一緒にどう?
事務所に戻るから1時間くらいしかないけど」


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