ビルの恋
7階。和食・兎屋。

カウンター席に並んで座る。

ランチ時間は、ビル勤務のイケメンエリートを狙う付近のOLで混みあっているらしいが、夜は空いている。

ラストオーダー間際の22時ともなれば当たり前か。

私は煮魚定食と、ビールを頼んだ。
甘辛い金目鯛に、ビールがよく合う。

伊坂君は仕事に戻るので、秋刀魚定食のみだ。

「それで、夏堀さんは今どんな感じ?」

秋刀魚を丁寧にほぐしながら、伊坂君が聞く。

「あまりパッとしない感じ」

一瞬、伊坂君が気まずそうな様子を見せたが、私は構わず話し続ける。

「職場は41階のS&W。
不動産関係に特化した部署にいる。
身分は、外国人エグゼクティブの秘書のアシスタント。
新卒で入った会社が3年前に倒産して、転職活動したんだけどうまくいかなくて。
意外と居心地が良くて、一時しのぎのつもりの派遣生活が、つい3年も」

伊坂君の箸が止まっている。

はっきり話しすぎただろうか。

でも取り繕っても仕方がないし。

伊坂君は箸をおくと、お茶を一口飲んで、こちらを見た。

「派遣から正社員には?」

「なくはないけど、どうかな」
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