ビルの恋
「コーヒーは毎朝買いに行くの?」

伊坂君が聞く。

「うん。上司は習慣を大切にするタイプ。
毎朝決まった時間に、曜日ごとに決められたフレーバーのコーヒーを飲むの」

「強迫的だな」

伊坂君が、呆れたように笑う。

「普通の人なら、付き合いきれないよね。
でも、鬼のように仕事ができるの。
だから、こういう奇妙な習慣は、彼が仕事で成果を出す上で必要なのかなと思う」

伊坂君は黙って聞いている。

「S&Wに入る前は、構造デザイナーとして高層ビルを設計していたキャリアもあって。多分、天才なのよ」

ここまで話して、我に返る。

「・・・ごめん、上司の話ばかり。つまらなかったね」

「いや、そんなことない。
優秀な人について聞くのは面白い」
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