ビルの恋
花見
一か月が過ぎた。

あれから伊坂君とは会っていない。

同じエレベーターを使っているはずだが、見かけることさえなかった。

伊坂君とどうこうなることは諦めつつあるが、服装に気を遣うことは、習慣として残った。

管理室で紀美子さんとお昼を食べる時には、どうすればセンス良く洋服を着こなせるのかを教えてもらった。
元デザイナーのアドバイスは、さすが的確でわかりやすく、私の服装は徐々に改善していった。


季節は変わり、ビル周辺の桜は、今にも蕾がほころびそうだ。

今日のランチは、外で早めの桜を眺めながらにしよう。

「お昼に行ってきます」

斎藤さんに声をかける。

「外食? 珍しいわね。あら?でもお弁当?」

作業の手を止めこちらを見た斎藤さんが、私のいつもの弁当バッグに気付いて尋ねる。

「外で食べようと思って。
裏庭のベンチで早めのお花見です。もし良かったら斎藤さんも」

「ありがとう。
この書類にサインもらえたら、行くわ。
間に合うかわからないから、食べ終わったら、私のことは気にせず戻ってきてね」

斎藤さんが書類を手に、言った。
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