ビルの恋
なるほど、その手があったか。
でも、紀美子さんの仕事は17時までだ。

「ね? 何時に仕事上がれそう?」

「早くても19時ですよ、紀美子さんもう帰ってる時間ですよ」

「気にしないで。
じゃあ、金曜日の19時にここにきてね、髪もちょっと結いましょうね」

紀美子さんがワクワクしているのが伝わってくる。

「でも、その、なんですか、ドレッシーな服。
私持ってないですよ」

「大丈夫。私のを貸してあげる。
仕事柄、以前はハイブランドのものを買ってたのよ」

「ハイブランド!? だったら猶更ご遠慮します。
そんな良い物、申し訳ないです」

「気にしないで、もう着てないから。
人にあげたりしてかなり処分したのだけど、特に気に入っていた何着かは手放せなくて。
うちは息子2人だから、奈央ちゃんに着てもらえたら嬉しいわ」

「私より5センチくらい背が高いから、ジャストフィットというわけにはいかないかもしれないけど、
目立たず着こなせるものを持ってくるから」

金曜日は黒のヒールで来るよう指示され、その日のランチはお開きとなった。




< 28 / 79 >

この作品をシェア

pagetop