ビルの恋
見ると、河野桜だ。

本条君と一緒だ。

気まずそうな様子の本条君に構わず、河野桜が近づいてくる。

「髪、いつもと感じ違うから一瞬わからなかった。
それに、職場では、全然違う洋服でしたよね?着替えてきたんですか?」

河野桜は、私を品定めするように見ると、

「ここ、空いてますか?」

伊坂君の隣の席を指して言った。

「邪魔しちゃ悪いですよ」

本条君が止めようとするが、河野桜は返事もしない。

そして、バーテンダーの返事を待たずに座って、コスモポリタンをオーダー。

早業だ。

河野桜は本条君には構わず、伊坂君の方を向いて座った。

「河野桜です。
はじめまして・・・じゃないですよね、エレベーターでお目にかかったことがあります」

早速自己紹介をはじめた。

「はあ」

伊坂君は関心がなさそうに答える。

「カボリさんと同じ会社で、お世話になっています」

思ってもいないくせに。

「そんなことないですよ」

思わず否定する。

「いえいえ。
いつも、雑用沢山やって頂いて。
プリンターの紙詰まり直すのなんて、業者さんより上手いくらいなんですよ。
私は秘書業務があるので、雑用まで手が回らなくて。
ほんっと、助かってます」

雑用雑用って、うるさいんだよ。

「あの、良かったら連絡先、頂けませんか?
せっかく同じビルで働いているんだし、今度お食事でも」

すごい積極性だ。
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