ビルの恋
堺さんの案内で、Bar54の受付内部を通り抜ける。

奥にドアがあり、開けると階段がある。
階段を登りきるとまたドアがあり、堺さんが開ける。

すると、そこは薄暗く重厚な雰囲気の空間だった。

革張りのどっしりしたソファが点在し、一人で過ごす人、数人で静かに語らうグループなどが見える。
暗いので、遠目からでは表情まではよくわからず、プライバシーが保たれた空間だ。

絨毯やカーテン、ソファは臙脂色で統一されている。

ごく落とした明るさの間接照明が、フロア各所をオレンジ色の光で照らしている。

ここはもしや。

「会員制のVIPラウンジですか。
Bar54と内部でつながっているんですね?」

伊坂君が聞くと、堺さんが頷く。

「左様でございます。
53階のフレンチ、Bar、VIPラウンジ、それにホテル、全て同じ系列の運営なので」

堺さんが、フロアの奥まったところにあるドアを開ける。
敢えて目立たないように作ってあるのだろう、そばに行くまで気付かなかった。

「さあ、どうぞ」

部屋に入ると、6畳ほどのごく薄暗い室内に大きな窓があり、夜景が広がっていた。

ビロード張りのソファと、マホガニーのローテーブルが置いてある。

「素敵・・・」

思わずため息が出る。

「今飲み物をお持ちします。
シャンパーニュでよろしいでしょうか?」

「いい?」

伊坂君が私に聞いてくれる。

「もちろん」

ビールもシャンパンも、泡のお酒は大好きだ。

堺さんが退室し、私たちはソファに座った。

「ついてるね」

「うん。
夏堀さんが綺麗にしてるから、上客として扱ってくれたんだよ」

「そうかな。
伊坂君の一万円が効いたんじゃない」

「それもあるかもね。
財布に万札しかなくて、一瞬躊躇したけど。
お釣りもらわなくて良かった」

伊坂君が楽しそうに笑う。

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