ビルの恋
さて、コーヒーを入手したことだし、エレベーターが混む前に急いで戻らなくては。

職場は41階なので、1階から高層階直通のエレベーターを使える。

とはいっても、27階から各階に停まるので、乗客が多い場合は、そこから41階までが長い。

足早にエントランスゲートを抜け、エレベーターホールに急ぐ。

見ると、エレベーターを待っているのは一人だけ。

やった。
ほとんど停まらず戻れる。

先客は…弁護士だ。

IDカードのストラップに、「瀬尾法律事務所」と書いてある。

29・30階に入居している、企業合併で有名な法律事務所だ。

日本的な事務所名だが、海外企業を多く顧客に持っているとの噂だ。

当然、そこで働く弁護士は語学堪能。
バイリンガル、トリリンガルが当たり前らしい。

育ちの良いエリート弁護士が多いのだろう。

隣に立っている彼も、知的で上品な雰囲気だ。

身長は175センチくらい。

やや細身。

つやのある黒髪を自然にまとめている。

ネイビーのコートに、グレーの細身のパンツ。

よく磨かれた茶色い革靴。

年は30前後か。

エレベーターが到着し、乗ろうとしたその時。

後ろから、高橋さんの声がした。
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