ビルの恋
同じ日の午後、私はコピー室で、本条君と資料の準備をしていた。

「今朝の彼・・・以前Bar54で会った弁護士ですよね?
夏堀さん、お付き合いされてるんですか?」

本条君が作業をしながら聞いた。

やっぱり気付いていたか。
返事をせずに様子を見る。

「結婚するとか?」

本条君がまた聞いてくる。
今朝の様子を見たら、そうは見えないと思うけど。

「しない。
しゃべってる暇あったら、資料整えましょうよ。
あと百部印刷して、それが終わったらパンフレットと一緒に袋詰め」

私は冷たく言って、刷り上がっている資料を本条君に渡した。

「夏堀さん、7月で31歳ですよね。
結婚の約束なしって、不安じゃないですか?
僕なら、お付き合いする場合は、結婚前提でって言いますけど」

本条君が資料の枚数を確認しながら言う。

「・・・本条君、モテるでしょう?まだ27歳?
仮に彼女がいて、30歳だとして、すぐ結婚決められる?」

私は、意地悪な言い方をした。

「決めますよ」

本条君が即答する。

「言うだけなら簡単」

私は作業を続けた。

少しの間があり、本条君が言った。

「僕と、結婚してもらえませんか」

思わず手を止めて、本条君の方を見る。

本条君は真剣な表情でこちらを見ている。

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